自分の常識が通じない? 思春期の子との価値観の違いに向き合う親の姿勢
思春期は、お子様が自立に向けて大きく成長する大切な時期です。この過程で、お子様は親とは異なる自分自身の価値観や考え方を持ち始めます。これまで親が当然だと思ってきた常識や考え方が、お子様に「通じない」と感じて戸惑ったり、意見が衝突したりすることも増えるかもしれません。
「なぜうちの子はこんなことを考えるのだろう」「自分の若い頃はこうではなかったのに」と感じ、どう接すれば良いか悩んでいる親御様もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、ご自身の仕事や経験に基づいて確固たる価値観をお持ちの方ほど、お子様との価値観の違いに直面した際に、どのように向き合えば良いか難しさを感じるかもしれません。
この記事では、思春期のお子様との価値観の違いがなぜ生じるのか、その背景にあるお子様の心理を解説します。そして、価値観の衝突を乗り越え、お子様とのより良い関係を築くために、親がどのように向き合い、対話すれば良いのか、具体的な考え方やステップについてご紹介します。
思春期に価値観が変化する背景とは
思春期のお子様の価値観が、親の考える「常識」や「当たり前」から離れていくのには、脳の発達や社会的な要因が深く関わっています。
この時期、お子様の脳、特に感情や衝動をコントロールし、計画性や論理的思考を司る前頭前野はまだ発達の途上にあります。一方で、感情をつかさどる扁桃体などの部位は敏感に反応します。これにより、感情の起伏が激しくなったり、衝動的な行動をとったりすることがありますが、同時に、善悪の判断や自分なりの考えを深めていく時期でもあります。
また、学校生活や友人関係を通じて、親から離れた世界に触れる機会が増えます。様々な考えを持つ人々と交流することで、親から教わったこと以外の価値観や情報に触れ、「自分はどう考えるか」「自分は何を大切にしたいか」といった自己同一性を確立しようとします。これは、親から精神的に自立し、一人の人間として社会に出ていくために非常に重要なプロセスです。
このような脳や心の変化、そして社会的な経験が、お子様が親とは異なる、あるいは対立する価値観を持つようになる自然な背景なのです。
親の価値観が子供に通じないと感じる理由
親御様が「自分の常識が通じない」と感じる背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、親御様ご自身の経験や成功体験に基づいた「正しい」という信念があるかもしれません。長年培ってきた価値観は、様々な困難を乗り越える上での支えにもなりますが、お子様にとっては、それがそのまま当てはまるとは限りません。
次に、世代間のギャップも大きな要因です。親御様が育った時代と、今のお子様が生きている時代では、社会の状況、テクノロジー、情報量、文化など、多くのことが変化しています。親御様にとっては当たり前だったことが、お子様にとっては馴染みのないことだったり、あるいはもっと効率的・合理的な別の方法があったりするのです。
そして何より、お子様が親から精神的に自立しようとしている過程であることが挙げられます。親の考えをそのまま受け入れるのではなく、「自分はこう思う」という独自の考えを持つこと自体が、成長の一歩なのです。親御様から見ると反発や無視のように見えても、お子様の中では自分の考えを模索し、確立しようとする大切な試みである可能性があります。
価値観の違いは「対立」ではなく「多様性」と捉える
お子様との価値観の違いに直面したとき、これを「親への反抗」や「間違った考え」として頭ごなしに否定したり、力ずくで親の価値観を押し付けようとしたりすると、お子様は心を閉ざし、かえって関係が悪化することが少なくありません。
ここで大切なのは、価値観の違いを「どちらかが正しく、どちらかが間違っている」という二者択一ではなく、「お互いに異なる考え方を持っている」という多様性として捉え直すことです。親御様が長年かけて培ってきた価値観があるように、お子様もこれから自分自身の価値観を形作っていく過程にいます。どちらの価値観にも、それぞれの成り立ちや理由があるはずです。
この多様性を認め合う姿勢こそが、お子様との対話の第一歩となります。お子様の考えを頭ごなしに否定せず、「なぜそう考えるのだろう?」という関心を持つことから始めてみましょう。
価値観の違いに向き合う親の具体的な姿勢と対話のヒント
お子様との価値観の違いに向き合い、建設的な対話を進めるためには、親御様の意識と具体的な関わり方が重要になります。多忙な日々の中でも実践できる考え方とヒントをいくつかご紹介します。
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まずはお子様の考えを「聞く」に徹する 親御様の意見や経験をすぐに伝えたい気持ちを一旦抑え、まずはお子様がなぜそのように考えるのか、その理由や背景をじっくりと聞くことに集中します。否定的な態度を取らず、「なるほど、あなたはそう思うのね」と、お子様の言葉を受け止める姿勢を示しましょう。完璧に理解できなくても、「聞こうとしている」という親の態度は、お子様にとって安心感につながります。
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親自身の価値観も絶対ではないと認識する 親御様が正しいと信じていることでも、時代や状況が変われば最善の方法ではないこともあります。また、お子様にはお子様の個性や適性があります。ご自身の価値観も数ある考え方の一つであると認識することで、お子様の異なる意見にも耳を傾けやすくなります。「自分の当たり前」を一度見つめ直してみることは、お子様との関係だけでなく、親御様自身の視野を広げる機会にもなります。
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「押し付け」ではなく「共有」のスタンスで伝える 親御様の経験や考えを伝えたい場合は、「こうするべきだ」「それが常識だ」といった命令や断定的な言い方ではなく、「お父さん(お母さん)は、こういう経験から、こう考えているよ」「一つの考え方として、こういう方法もあるかもしれないね」のように、「共有」するスタンスで伝えます。お子様がそれをどう受け止めるかは、お子様に委ねるくらいの気持ちでいることが大切です。
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冷静に話し合える時間と場所を選ぶ お互いに疲れている時や、感情的になりやすい状況での話し合いは避けるようにします。短時間でも良いので、落ち着いて話ができるタイミングを見計らいます。忙しい中でまとまった時間を作るのが難しければ、夕食後の短い時間や週末の少し落ち着いた時間など、日常の中に意図的に対話のタイミングを設ける工夫をしてみてください。
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本当に譲れないこと(ルール)は明確に、それ以外は柔軟に お子様の安全に関わることや、家庭での基本的なルールなど、親としてこれだけは譲れない、というラインを親子で話し合って明確に設定します。(可能であれば、ルール作りもお子様と一緒に行えると理想的です。)それ以外の、価値観や考え方に関わる部分については、お子様の意見を尊重し、柔軟に対応することを心がけます。すべての意見の相違に「正しい・間違っている」の決着をつけようとしないことも重要です。
多忙な中でもできること
多忙な親御様にとって、お子様とじっくり向き合う時間を作るのは容易ではないかもしれません。しかし、価値観の違いに向き合うための対話は、必ずしも長時間である必要はありません。
例えば、 * お子様が何かについて話している時に、手元の作業を止めて、数分でもお子様の目を見て相槌を打つ。 * 移動中や食事中に、お子様が最近関心を持っていることについて質問してみる。 * お子様が好きな音楽や動画、ゲームなどについて、「これのどういうところが面白いの?」と聞いてみる。
こうした短い時間でも、親がお子様の世界に関心を持っていることを示すことで、お子様は心を開きやすくなります。日頃からこうした小さな関わりを積み重ねておくことが、いざ価値観が衝突した際に、落ち着いて対話できる土壌となります。
また、完璧を目指さないことも大切です。いつも冷静に、理想的に対応できるわけではありません。感情的になってしまうこともあるかもしれません。その際は、後で「さっきはごめんね、言いすぎてしまったかもしれない」と素直に伝えることも、お子様との信頼関係を維持するために有効です。
まとめ
思春期のお子様との価値観の違いは、親にとっては戸惑いや難しさを伴うものかもしれません。しかし、それはお子様が自分自身の人生を歩むための大切な成長の証でもあります。価値観の衝突をネガティブなものとして捉えるのではなく、お子様の多様性を知り、対話を通じて互いを理解し合うための貴重な機会として捉え直してみてはいかがでしょうか。
お子様の考えに耳を傾け、親自身の価値観も絶対ではないと理解し、そして親の考えを「押し付け」ではなく「共有」として伝えること。そして、多忙な中でも、短い時間でも質の高い関わりを積み重ねていくこと。これらの姿勢が、お子様との間に新たな信頼関係を築き、より豊かな親子関係を育んでいくことにつながるでしょう。この時期の向き合い方が、お子様の将来の自立を支える土台となると信じて、お子様の心に寄り添っていただければ幸いです。