指示や命令じゃない 思春期の子が話したくなる親の言葉かけのポイント
はじめに:言葉選びが思春期の子との関係を左右する
思春期のお子様との関わりの中で、「どう話しかければ良いのか分からない」「つい指示や命令になってしまい、結局反発される」といったお悩みをお持ちの親御様は少なくないでしょう。かつては素直だったお子様が、急に口数が減ったり、何を言っても「分かってる」「ウザい」と返してきたり。毎日忙しい中で、子供とのコミュニケーションに時間をかけられない、どうすれば良いか分からないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
反抗期と呼ばれるこの時期は、子供が心身ともに大きく成長し、親からの精神的な自立を目指す大切なプロセスです。この時期の親の言葉かけは、お子様の自己肯定感や親子の信頼関係に深く影響します。残念ながら、親からの指示や命令、否定的な言葉は、お子様の心を閉ざし、対話を遠ざけてしまうことがあります。
この記事では、思春期のお子様が「この親になら話しても良いかな」「ちょっと話してみようかな」と思ってくれるような、心を開く言葉かけの具体的なポイントを、お子様の心理や発達の視点から分かりやすく解説します。多忙な日々の中でも実践できる、少しの意識の変化や工夫についても触れています。過去の経験からコミュニケーションに苦手意識がある方も、ぜひ新たな一歩を踏み出すヒントとしてお読みください。
なぜ指示や命令では伝わらないのか?思春期の子の心理
思春期のお子様が親からの指示や命令に反発したり、黙り込んだりするのは、単なる反抗心だけが理由ではありません。この時期の脳や心の急速な発達が大きく関わっています。
まず、思春期には自己意識が高まり、「自分は一人の人間として尊重されたい」「自分で決めたい」という気持ちが非常に強くなります。親からの指示や命令は、「あなたはまだ自分で考えられない」「親に従うべきだ」というメッセージとして受け取られやすく、お子様の自立心やプライドを傷つけてしまう可能性があります。
また、脳の前頭葉、特に自己制御や判断、感情のコントロールに関わる部分がまだ発達途上です。感情の波が大きく、衝動的な行動や言葉が出やすい時期でもあります。この不安定さゆえに、親からの言葉を冷静に受け止めたり、言葉の裏にある親の気持ちを汲み取ったりすることが難しくなります。
さらに、親に自分の全てを話すことに抵抗を感じ始める時期でもあります。友達との関係や自分の内面について、親には知られたくない秘密や葛藤を抱えることもあります。親からの詰問や詮索に感じられるような言葉かけは、お子様にとってはプライバシーへの侵害のように感じられ、心を閉ざすきっかけとなります。
このような思春期特有の心理や発達段階を理解することで、お子様の反発や沈黙が、親を困らせるためではなく、成長の過程で起こる自然な反応であることが見えてくるかもしれません。そして、指示や命令ではなく、お子様の心に寄り添い、対話を促す言葉かけの重要性が理解できるでしょう。
避けるべき言葉かけと、子供が話したくなる言葉かけの基本姿勢
思春期のお子様との対話を閉ざしてしまう可能性のある言葉かけには、いくつかの特徴があります。
避けるべき言葉かけの例:
- 一方的な指示・命令: 「〜しなさい」「〜するのはやめなさい」
- 頭ごなしの否定・決めつけ: 「どうせできない」「またスマホばっかりでしょ」「全く分かってないね」
- 過去の持ち出しや比較: 「前もそうだったでしょ」「〇〇君はちゃんとやってるのに」
- 感情的な強い口調・詰問: 感情的に怒鳴る、問い詰めるように畳み掛ける
- 過度な詮索: プライベートな領域に踏み込みすぎる質問
これらの言葉かけは、お子様を追い詰めるか、心を閉ざさせるかのどちらかになりがちです。
では、お子様が心を開いて話したくなるような言葉かけのためには、どのような姿勢が大切でしょうか。基本となるのは、「聞く」姿勢です。
- 聞くことへの意識: まず親が話すのではなく、お子様の言葉に耳を傾ける準備をする。お子様が何か話そうとしたら、手を止めて顔を向けるなど、聞く姿勢を示す。
- 判断や評価をしない傾聴: お子様の話の途中で口を挟まず、すぐに意見やアドバイスをせず、まずは最後まで話を聞く。たとえ内容に同意できなくても、まずは受け止める姿勢を見せる。
- 共感を示そうと努める: お子様の感情や状況を理解しようとし、「そっか、そういう気持ちだったんだね」「大変だったね」など、共感の言葉を添える。
子供が「話してみようかな」と思う具体的な言葉かけのポイント
基本姿勢を踏まえた上で、具体的にどのような言葉を選ぶと良いのでしょうか。いくつかポイントをご紹介します。
1. 「Why」ではなく「What」「How」で尋ねる
「なぜ〜しなかったの?」という問いかけは、詰問に聞こえやすく、お子様を責めるニュアンスになりがちです。代わりに、「何があったの?」「どうしたら良いかな?」といったオープンな質問を心がけてみましょう。
- 例1: 「なぜ部屋を片付けないの!」→ 「部屋、ちょっと散らかってるけど、何か大変なことでもある?」「どこから片付けたらやりやすいかな?」
- 例2: 「なんでゲームばっかりやってるんだ!」→ 「そのゲーム、どんなところが面白いの?」「今日は他に何かやりたいことある?」
2. 選択肢を与える言葉かけ
一方的に指示するのではなく、お子様に自分で考え、選択する機会を与える言葉かけです。「〜しても良い?」という形で許可を求めるのではなく、「AとB、どっちが良い?」または「〜について、どう思う?」と意見を求める形が良いでしょう。
- 例: 「早く宿題をやりなさい!」→ 「宿題、ご飯の前と後、どっちにやるのが良さそう?」 「自分でやる時間を決めてくれたら助かるな」
3. 肯定的な言葉で小さな変化に気づく
思春期は、親からの否定的な言葉に特に敏感です。ダメ出しばかりではなく、お子様の努力や良いところに意識的に目を向け、具体的に褒める、認める言葉を伝えましょう。小さな変化や当たり前のことにも気づくことが大切です。
- 例: 「言わなくても自分で起きて準備できたね、すごいね」「苦手なことでも、最後まで諦めずに頑張ったね、お父さん/お母さんはその頑張りを知ってるよ」「〇〇(具体的な行動)してくれて、ありがとう。助かったよ」
4. 「Iメッセージ」で親の気持ちを伝える
「あなたは〜だからダメだ」という「Youメッセージ」ではなく、「私は〜だと感じる」という「Iメッセージ」で親の気持ちを伝えることで、お子様は責められていると感じにくくなります。
- 例: 「いつも遅くまでゲームして、本当に困る!」→ 「夜遅くまでゲームしていると、お父さん/お母さんはあなたの健康が心配になるんだ」 「部屋が散らかってると、片付けたくなってしまって、気になって落ち着かないんだ」
5. 忙しい中でもできる工夫
「そんな時間はない」「疲れていて、つい強く言ってしまう」と感じることもあるでしょう。完璧を目指す必要はありません。
- 質より量: 長い時間でなくても、お子様が話しかけてきた時、数分でも良いので集中して耳を傾ける。
- ながら禁止: スマホを見ながら、テレビを見ながらではなく、顔を見て話す時間を作る。
- 日常の隙間時間: 食事中、移動中、寝る前など、日常の少しの時間を活用する。
- まずは親から: 「今日、何か良いことあった?」など、親から短い言葉で話しかけてみることから始める。
具体的な状況での言葉かけ例
| 状況 | 避けてしまいがちな言葉かけの例 | 心を開く言葉かけの例 | | :---------------------- | :--------------------------------------------------- | :------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ | | 部屋が散らかっている | 「いつになったら片付けるの!汚い!」 | 「部屋、ちょっと物が多いみたいだけど、何か必要なものが見つかりにくいとか、困ってることない?」「片付け、何か手伝おうか?」 | | ゲームばかりしている | 「ゲームばっかり!いい加減にしなさい!」 | 「ずいぶん集中してゲームしてるね。今どんな感じ?」「ゲームも楽しいけど、外の空気吸ったり、体を動かしたりする時間も作れると良いね」 | | 成績が良くなかった | 「なんでこんな点数なの!全然勉強してないんでしょ!」 | 「今回のテスト、あまり納得いく結果じゃなかったかもしれないね。難しかった?」「もし良かったら、一緒に見直してみようか?」 | | 何か悩んでいる様子 | 「どうしたの?何か隠してることでもあるんでしょ!」 | 「最近、何か元気がないように見えるけど、何かあった?」「話したくなったら、いつでも聞くからね。無理に話さなくても大丈夫だよ」 | | 口答えをしてきた | 「親に向かってなんて口の利き方だ!」 | 「今の言い方、お父さん/お母さんは少し悲しい気持ちになったな」「何か伝えたいことがあるなら、違う言い方で教えてくれる?」 |
まとめ:言葉かけを変えることから始まる関係性の変化
思春期のお子様への言葉かけを変えることは、お子様との関係性をより良くするための大きな一歩となります。指示や命令から、お子様の心に寄り添う言葉へとシフトすることで、お子様は「自分のことを理解しようとしてくれている」「頭ごなしに否定されない」と感じ、少しずつ心を開いてくれる可能性があります。
すぐに劇的な変化が見られなくても、焦る必要はありません。大切なのは、親御様がお子様に関心を持ち、理解しようと努めている姿勢を伝え続けることです。完璧な言葉かけを目指すのではなく、まず今日から一つ、試せることから始めてみましょう。例えば、「ありがとう」や「助かったよ」といった肯定的な言葉を増やす、お子様の話を遮らずに聞く時間を意識するなど、小さな変化から始めることができます。
親御様自身も、忙しい日常の中でイライラしたり、疲れていたりする時には、感情的な言葉が出やすくなるものです。ご自身の心身のケアも大切にしながら、できる範囲で、お子様との対話の扉を開く言葉を選んでみてください。お子様の成長を信じ、寄り添い続ける親御様の存在は、お子様にとって何よりの安心感となるはずです。