見えない不安を抱える思春期の子にどう寄り添う?将来への悩みと親の関わり方
思春期は、子どもたちの心と体が大きく変化する時期です。この時期には、これまでになかった感情や悩み、そして将来に対する漠然とした不安を抱え始めることがあります。親御さんとしては、心配から「こうすればいいんじゃないか」「こうした方がいい」とアドバイスしたくなる気持ちが湧いてくるかもしれません。しかし、その言葉が、かえって子どもを追い詰めてしまったり、関係をこじらせてしまったりすることもあります。
この記事では、思春期の子どもが抱える将来への「見えない不安」について理解し、親がどのように寄り添うことができるのか、具体的な関わり方について考えていきます。過去に子どもとの関係で難しい経験をされた親御さんや、日々の仕事でお忙しい親御さんにも、無理なく実践できるヒントをお伝えできれば幸いです。
思春期の子どもが抱える将来への漠然とした不安とは
思春期は、自分自身が社会の中でどのような存在なのか、将来どう生きていくのかを意識し始める大切な時期です。しかし、この時期の子どもたちの脳、特に将来を計画したり、感情をコントロールしたりする前頭葉はまだ発達途上です。そのため、明確な目標を持つことや、将来を具体的に見通すことが難しく、結果として漠然とした不安を感じやすくなります。
彼らが感じる不安は、例えば以下のようなものです。
- 自分自身の能力や適性への不安: 「自分には得意なことがない」「将来何になりたいか分からない」といった自信のなさや迷い。
- 進路への不安: どんな学校に行けばいいのか、どんな仕事に就けばいいのか、選択肢が多くて選べない、失敗したくないといった悩み。
- 周りとの比較による不安: 友達はもう目標を見つけているように見える、SNSで見る周りの成功例に比べて自分は何もできていない、といった焦りや劣等感。
- 社会への不安: 将来の経済状況、環境問題、人間関係など、漠然とした社会の課題に対する不安。
- 親の期待へのプレッシャー: 親に認められたい、期待に応えたいと思う反面、それが重荷になっている感覚。
これらの不安は、具体的な言葉として表現されることもあれば、「別に」「なんでもいい」といった態度や、無気力に見える行動として現れることもあります。親から見ると、なぜやる気がないのか、どうして考えないのかと理解に苦しむこともあるかもしれません。
親はなぜ「つい」口出ししたくなるのか
子どもが将来への不安を抱えているように見えたり、行動が伴わないように感じたりすると、親御さんとしては「このままではいけない」という強い思いから、ついアドバイスや指示をしてしまいたくなります。これは、親自身の過去の経験から「こうしておけば良かった」と思うことや、純粋に子どもへの心配、あるいは社会で生きていく上での「常識」を伝えなければという責任感からくるものです。
しかし、思春期の子どもは、親からの直接的なアドバイスや指示を「管理されている」「自分の気持ちを分かってもらえない」と感じやすい傾向があります。親の言葉がけが、かえって子どもの自己肯定感を下げてしまったり、反発心を招いてしまったりすることもあるのです。子どもにとって大切なのは、正解を教えてもらうことではなく、自分の不安な気持ちに寄り添ってもらうこと、そして自分で考え、乗り越えていくプロセスをサポートしてもらうことです。
子どもの不安に寄り添うための基本的な姿勢
では、子どもの将来への漠然とした不安に、親はどのように寄り添えば良いのでしょうか。最も大切なのは、親が「答え」を与えるのではなく、子ども自身が自分の不安と向き合い、乗り越えていくための「伴走者」であるという姿勢です。
- 子どもの気持ちを受け止める: 子どもの言葉や態度に表れる不安を否定せず、「不安なんだね」「迷っているんだね」と、まずはその感情そのものを受け止める姿勢が重要です。たとえそれが親から見ると取るに足らないことのように思えても、子どもにとっては真剣な悩みです。
- 安心できる場所であること: 家庭が、どんな自分でも受け入れてもらえる、安心して失敗したり悩みを話したりできる場所であること。親は評価者ではなく、味方であるというメッセージを伝えることが大切です。
- すぐに解決しようとしない: 不安を聞いたからといって、すぐに解決策を提示したり、「大丈夫だよ」と安易に励ましたりすることは、かえって子どもを孤立させる可能性があります。まずはじっくり話を聞くことから始めましょう。
- 親自身の不安と向き合う: 子どもの将来に対する親自身の不安や期待が、子どもへの接し方に影響していないか、一度立ち止まって考えてみることも大切です。親自身の心の安定が、子どもに安心感を与えます。
具体的な寄り添い方:忙しい日常でもできること
多忙な毎日の中で、子どもとじっくり向き合う時間を確保するのは難しいと感じる親御さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、大切なのは時間の長さだけではありません。短い時間でも、質の高い関わりを持つことが可能です。
- 傾聴を心がける: 子どもが何か話そうとした時、たとえ短時間でも良いので、作業を中断して子どもの方を見て話を聞く姿勢を見せましょう。「うんうん」「そうなんだね」と相槌を打ちながら、最後まで話を聞いてあげてください。話の途中で意見を挟んだり、評価したりすることは避けましょう。
- 共感の言葉を使う: 子どもの話を聞いて、「それは不安になるね」「どうしたらいいか分からなくなる気持ち、分かるよ」など、子どもの感情に寄り添う言葉を伝えてみましょう。親も過去に似たような経験があった場合は、その時の気持ちを共有するのも良いかもしれません(ただし、武勇伝や成功談の押し付けにならないように注意が必要です)。
- 質問の仕方を変える: 「将来何になりたいの?」といった問いは、子どもにプレッシャーを与えることがあります。「最近、何か面白いことあった?」「どんなことに興味がある?」「やってみたいけど、どうしたらいいか分からないことってある?」など、答えやすい、子どもの内面に目を向けさせるような質問を投げかけてみましょう。
- 「一緒に考える」姿勢を見せる: 「一緒に何か調べてみる?」「こういう情報もあるみたいだよ」など、親が答えを与えるのではなく、子どもと一緒に考えたり、探したりする姿勢を見せることで、子どもは一人ではないと感じることができます。
- 完璧を目指さない: 子どもは日によって態度が変わるものです。いつも完璧に寄り添うことは難しいですし、親だって疲れている日もあります。大切なのは、完璧であることではなく、子どもを気にかけている、支えになりたいと思っているという気持ちを伝え続けることです。忙しい中でも「今日の調子どう?」「何か困っていることはない?」といった短い声かけをするだけでも、子どもは安心感を得られます。
- 親自身の経験を語る(押し付けず): 親御さん自身の若い頃の悩みや、将来について迷った経験、失敗談などを、あくまで「自分はこうだったよ」という形で話してみるのも良いでしょう。子どもは、親も完璧ではないこと、迷いながら大人になっていくことを知り、安心感を得られることがあります。ただし、その経験を子どもに当てはめて「だからお前もこうしろ」と繋げないことが重要です。
避けたいNG行動
- 子どもの不安を軽視する: 「そんなことくらいで悩むな」「考えすぎだよ」と突き放す言葉は、子どもを深く傷つけます。
- 他の子どもと比較する: 「〇〇君はもう目標があるのに」といった比較は、子どもの自己肯定感を大きく損ないます。
- 一方的に解決策を押し付ける: 子どもの話を聞かずに「〇〇学部に行けばいい」「この仕事は安定している」などと決めつけるのは避けましょう。
- 過度な期待を表明する: 「あなたならきっとできる」「期待しているよ」といった言葉も、子どもの状況によっては大きなプレッシャーになることがあります。
最後に
思春期の子どもが将来への漠然とした不安を抱えるのは、自然な成長の過程です。すぐに明確な答えが見つからなくても、それが悪いことではありません。大切なのは、親が子どもを信じ、焦らず、そのペースに寄り添い続けることです。
日々の忙しさの中で、子どもとの関係に難しさを感じたり、どう接すれば良いか分からなくなったりすることもあるでしょう。完璧な親になる必要はありません。親自身も試行錯誤しながら、子どもと共に成長していくプロセスとして捉えてみてください。
子どもが自分の力で将来を切り開いていくためには、親からの信頼と安心できる家庭環境が何よりの支えとなります。この記事でご紹介したヒントが、皆さんとお子さんのより良い関係構築の一助となれば幸いです。