無意識の否定が子供を遠ざける? 思春期の子の心をひらく親の受け止め方
思春期のお子様との関わりは、喜びもあれば、難しさを感じる瞬間も少なくないものです。特に、過去に試行錯誤されてきた親御様にとっては、今回こそはお子様との信頼関係を大切にしたい、と感じていらっしゃるかもしれません。多忙な日々の中、お子様と向き合う時間は限られているかもしれませんが、その短い時間の中でも、お子様の心を遠ざけてしまうかもしれない「無意識の否定」について理解し、関係をより良くするための具体的な「受け止め方」を考えてみませんか。
無意識の否定とは何か?思春期の子への影響
思春期のお子様は、親から自立し、自分自身の価値観や考え方を確立しようとする大切な時期にいます。この時期に、親が良かれと思って発する言葉が、意図せずお子様にとって「否定」として受け取られてしまうことがあります。
例えば、
- お子様が悩みを話したときに、すぐに「でもね、こうした方がいいよ」とアドバイスしてしまう。
- お子様の意見に対して、「それは違うんじゃない?」「まだ早いよ」と頭ごなしに否定する。
- お子様が感情を表現したときに、「そんなことで怒る(悲しむ)なんて」「大げさだよ」と軽く見る。
- お子様の考えや将来の希望に対して、「現実的じゃない」「無理だろう」と可能性を閉ざすような言葉をかける。
これらの言葉の背景には、親御様の心配や、お子様に失敗してほしくないという愛情があることが多いでしょう。しかし、お子様にとっては「自分の気持ちや考えを理解してもらえなかった」「親は自分を信じてくれていない」と感じられ、心を閉ざすきっかけとなってしまう可能性があります。
思春期は、自己肯定感を育む上で非常に重要な時期です。自分の意見や感情を否定される経験が繰り返されると、お子様は「自分には価値がない」「どうせ話しても無駄だ」と感じ、自信を失ってしまうことがあります。これは、お子様の自立心の発達を妨げ、親子の対話を困難にし、結果としてお子様が何か困難に直面した際に親に頼ることを避けるようになるかもしれません。
なぜ親は無意識に否定してしまうのか
親御様がなぜ無意識に否定的な言葉を使ってしまうのでしょうか。そこにはいくつかの要因が考えられます。
- 良かれという気持ちと焦り: お子様のためを思い、早く解決策を示したい、危険から遠ざけたいという気持ちが強いほど、お子様の話を最後まで聞かずにアドバイスや正論を伝えたくなってしまうことがあります。忙しい日常の中では、じっくり話を聞く時間がないという焦りも影響するかもしれません。
- 親自身の価値観や経験: これまでの人生経験から培われた「正しい」という考え方や、ご自身の成功・失敗体験に基づいて、お子様の言動を判断してしまうことがあります。
- 親自身が否定されて育った経験: 過去に親御様自身が意見や感情を否定されて育った場合、それがコミュニケーションのパターンとして無意識に引き継がれている可能性も考えられます。
- お子様の発言の真意を汲み取る余裕のなさ: お子様の言葉の表面的な部分だけを捉え、その背景にある本当の気持ちや意図に気づけないまま反応してしまうことがあります。
これらの要因は、決して親御様が悪いということではありません。これまでの経験や状況がそうさせているのかもしれません。大切なのは、この「無意識の否定」のパターンに気づき、意識的に変えていこうとすることです。
思春期の子の心を開く「受け止め方」のステップ
では、どのようにすればお子様の意見や感情を否定せず、受け止めることができるのでしょうか。多忙な中でも意識できる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:まずは「聞く」に徹する
お子様が何か話し始めたら、まずは手を止めて、お子様の方に体を向けましょう。話の途中で口を挟まず、最後まで耳を傾けます。頷きや「うんうん」といった相槌、「なるほど」「そうなんだ」といった言葉で、聞いていることを伝えましょう。お子様が話した言葉を繰り返す「オウム返し」も効果的です。例「〇〇で嫌な思いをしたんだね」。
- 忙しい時の工夫: 長く話せない時は、「今ちょっと手が離せないんだけど、5分だけ話せる時間を作れるよ」「後で改めて聞かせてもらえる?」など、正直に伝え、短時間でも集中して聞く時間を作りましょう。
ステップ2:感情に寄り添う言葉を返す
話の内容に対する評価ではなく、お子様がその時感じているであろう感情に寄り添う言葉を返しましょう。「そう感じているんだね」「それは大変だったね」「辛かったんだね」「悔しかったんだね」など、お子様の感情を言葉にして返すことで、「自分の気持ちを分かってもらえた」という安心感が生まれます。
- 忙しい時の工夫: 短い相槌や共感の言葉だけでも、「聞いてくれている」というメッセージは伝わります。「うん、大変だったね」と一言だけでも寄り添う意識を持ちましょう。
ステップ3:意見として「一旦受け取る」姿勢を示す
お子様の意見や考え方がご自身のものと違っていても、すぐに訂正したり反論したりせず、「そういう考え方もあるんだね」「なるほど、〇〇はそう思ったんだ」と、一つの意見として受け取る姿勢を示しましょう。これは、その意見に賛成するという意味ではなく、「あなたの考えをちゃんと聞きましたよ」という敬意を示す行為です。
- 忙しい時の工夫: 「分かった、一旦そう考えているんだね」と、結論を出さずに一旦保留にする伝え方も可能です。後で改めて話し合う時間を持つことを伝えましょう。
ステップ4:親の意見やアドバイスは「許可を得てから」伝える
お子様が話終え、親御様が受け止める姿勢を示した後に、もしアドバイスやご自身の意見を伝えたい場合は、「少し私の経験を話してもいいかな?」「これについて、お父さん(お母さん)はこう思うんだけど、聞いてもらえる?」など、許可を得る形で伝えましょう。これにより、お子様は「押し付けられる」と感じにくくなります。
- 忙しい時の工夫: 短く要点を絞って伝える、または「今すぐには難しいから、また改めて話す時間を持とう」と伝えることも大切です。無理に短い時間で全てを伝えようとしないことも必要です。
ステップ5:完璧を目指さない
全ての状況で理想的に受け止めることは、現実的ではありません。親御様だって人間ですから、疲れていたり、余裕がなかったりすることもあるでしょう。完璧を目指すのではなく、「気づいた時に意識してみよう」「今日は一つでも受け止める言葉をかけてみよう」といった気持ちで取り組むことが大切です。できなかった時も自分を責めすぎず、「次はこうしてみよう」と前向きに捉えましょう。
まとめ:受け止めは関係改善の第一歩
思春期のお子様との関係において、「無意識の否定」を減らし、「受け止める」姿勢を持つことは、信頼関係を築く上で非常に重要なステップです。お子様の意見や感情を受け止めることは、その内容に全て賛成することではありません。それは、「あなたの存在、あなたの気持ちや考えを大切に思っているよ」というメッセージであり、お子様が安心して自分を表現できるようになるための基盤となります。
多忙な日常の中で、意識的にこの「受け止め方」を取り入れることは簡単ではないかもしれません。しかし、わずかな時間でも、お子様の言葉に耳を傾け、感情に寄り添う姿勢を示すことで、お子様の心には「自分は大切にされている」「話を聞いてくれる存在がいる」という安心感が育まれます。
過去の経験にとらわれすぎず、今日からできる小さな一歩を踏み出してみませんか。受け止めることから始まる対話が、きっとお子様との新しい関係を築くきっかけとなるはずです。応援しています。